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牀前看月光 (ベッド※の前で月の光をみている) ※本来は「井戸」とする説もある
疑是地上霜 (地上に霜が降りたのではないかと思うほどだ) 挙頭望山月 (頭をあげて美しい山月を仰ぎ) 低頭思故郷 (頭を垂れて遠い故郷を思う) 唐の大詩人、李白の有名な詩だ。なんと、繊細でやさしい詩だろう。 李白は生涯に千首を超える詩歌を残したと言われるが、民衆の悲しみ、怒り、願いを、実に様々なスタイルで詠っている。都にむかう信念と情熱にあふれた詩、故郷を思う詩、夫を思う女性の心を代弁した詩、寂しさを詠った詩などがある。それらを読んでみると、国や時を超えて人の思いや願いは同じで、形やメロディーを変えて表わされているだけなのだと改めて思う。 激しい音楽は伴わない代わりに、激しくほとばしる情熱と希望を詠うのはまさにロックだ。そして時にバラード、時にJAZZというように、様々なジャンルをこなした才能は、詩仙と呼ばれた。「酔いどれ詩人」だからトム・ウェイツみたいな人だったかもしれない。そういえば「Grapefruits Moon」はこの詩のカヴァーみたいだ、などと考えていると、結構、漢詩が身近になってくる。 不遇の人だったと人は言う。確かに若くして詩作の才能に恵まれていながら「科挙」を受験する環境になかったことは彼の人生の謎のひとつだ。それでも都に仕えたい一心で長安を目指し、後ろ盾を作るために各地を放浪する。そして念願叶い長安に仕えるも、何かしらの理由でわずか一年ほどで解雇されてしまう。失意の中で放浪していると都から使いが来て・・・と、彼の人生はそれ自体がドラマチックである。生まれ持った才能は否定するべくもないが、放浪のゆえに得た友情、人のやさしさ、憎しみ、哀しみ、そして不遇であった故に感じた憤りや怒りそして強さ。それらを乗り越えて得た全ての生命に対する慈愛。それらは彼の詩歌をさらに深いものにしたこともまた事実であった。確かに不遇であった。だが、最後まで諦めることがなかったそれゆえに、彼の最後は「満足」であったと思えてならない。 また、李白は友情をとても大切にした人で、我が日本国の代表、阿倍仲麻呂とも交友があった。ある時、仲麻呂が帰国する途上で遭難し亡くなったという誤報が李白の元に届く。彼はすぐさまその悲しみを一篇の詩に託した。その後、仲麻呂は現在のベトナムに漂着し陸路長安に戻ってくるが、都を追われた李白はその事を知ることがなかったと言われている。だが、その詩は厳然と彼らの友情を永遠のものにし、現代の私たちに伝える意味はとても大きい。 遣唐使船は一度に500人余りの留学生を唐に送ったが、その航海技術から三分の一は生きて帰ってこられなかったと言う。これほどの危険を冒して渡った大国「唐」で、彼らが本当に学んだことは何であったか。それは、言葉や文化の違う異国の人々が決して「狄」などではなく、同じように志を高く持ち、友情を築き、詩を贈りあうことのできる「友」だということであったのではないか。それは彼らの人生を揺さぶる大事件であったに違いないのだ。私たちは、彼らが命がけで感じ、大切にしたものを、もっと深く感じるべきなのだ。 「天の原 ふりさけみれば春日なる 三笠の山に 出でし月かも」 仲麻呂が二度と踏むことがなかった故郷に伝えたかったもの。 李白が月に託した一片の夢。 彼らが眺めたであろう月を、時を超えて眺めながら、そんなことを思う。 静かなる夜の思い。 明日は満月です。 ________________________________ 以下は余談です。 ※ある日、北京の瑠璃厰近くで月の写真を撮っていると、夕涼みをしていたおじいちゃんに「日本の月と北京の月とどう違うのかの?」と聞かれた。確かに、同じだなぁと思いながら、私は意地悪を言った。「おじいちゃん、知らないの?日本の月と北京の月は違うんだよ」。おじいちゃんは、ほうっと息をつくと「それなら、一度見てみたいものじゃな」と笑った。 そのおじいちゃんは白髪三千丈だった・・・か、どうかはご想像におまかせします。 ※先日、本屋で「唐詩選ください」と言ったら、店の兄ちゃんはメモ帳に「投資銭」と書いていた。
by sayang0522
| 2010-11-21 05:53
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